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手塚治虫の名作「W3(ワンダースリー)」を、無声舞台にした
「Amazing PerformanceW3」
にいってきました。
※原作及び公演内容のネタバレを含みます。
ワンダースリーが王子主演で舞台化だと?Σ (゚Д゚;)
50年代から60年代70年代に生まれ育って少年漫画の洗礼を受けてきた層にとって、石森章太郎と手塚治虫は必ず通る道じゃないでしょうか。
石森・手塚の漫画で、ぼくたちはSFにはじめて触れました。
私は女ですが、漫画は少年漫画の薫陶を受けてます。
私の場合は小学校をほとんど外国で過ごしていたという事情もあるんですが。
日本語の本、とくに漫画は日本から祖父がたまに送ってくれる荷物に入っているものしか読めるものがなくて、そして送られてきたのがことごとくチャンピオンコミックスしかも石森手塚で(笑)、少女漫画がそもそも選択肢に存在していなかったんですね。
それでも、たぶん受け付けなかったらあんなに読まなかったと思うので、私にはそういう素養があったんでしょう。
手塚・石森を比べた場合、私により影響を与えたのは石森でした。
たぶん7つ8つのガキには手塚の強い精神的あるいは政治的なメッセージよりも石森のわかりやすいかっこよさのほうが理解しやすかったんでしょう。
それでも手塚も大好きで、どちらの単行本もぼろぼろになるまで読みました。
その中にワンダースリーも当然ありました。
超名作です。
そして、そのワンダースリーが、なんと50年を経て舞台化されるというではありませんか。
しかも、ABと2チームある出演者のうちAチームの、どう見てもセンターが王子こと西島千博あらため西島数博さんです。すいません改名したのがあまり追いかけなくなってからというのもあってどうも改名後の名前になじめなくて(・x・)
もうだいぶ長いこと、王子の舞台見てませんでした。
最後にみたのなんだろう、両国国技館でやった美容室?の自己アピールコンペみたいなもの?(結局最後までなんの催しなのかわかんなかった一般には非公開の業界イベント)に、とある出展者のパフォーマンスの出演者として出演したのをファンクラブ枠で入場券もらって観に行ったのが最後・・・かなあ。パルコ劇場のすきま公演でひたすら女の独白で進む舞台のピアニストの役を演じてたやつのほうがあとかしら。
どっちにしても、何年前だか覚えてません。
王子との出会いはすんごい昔で、20世紀のおわりごろでした。
あ、王子はバレエダンサーです。でした? 今はダンスパフォーマーって名乗ってるみたいですね。
世間的?にはもと宝塚の真矢みきさんの結婚相手としてワイドショーなんかで見たことがあるかたのほうが多いかもしれません。
王子の出るものならなんだってどこへだって観に行った時期もありましたが(さすがにドイツはいきませんでした。香港までかな遠くて)、彼がクラシックをほとんど踊らなくなってバレエ団も退団しちゃってからは、あまり観にいくこともなくなっちゃってファンクラブも更新しないでそのままになっちゃってました。
それでも、
ワンダースリーを王子主演で舞台化だと?Σ (゚Д゚;)
と聞いたら、さてチケを手配すべきは初演か楽か、え、いくよ?そこは考慮に値しないでしょと考える程度には、まだファンです(笑)
不安
ワンダースリー舞台化、それも王子が出るってことはダンス公演。
公式サイトにも「ノンバーバル」と書かれてます。
セリフがない、というより、言葉に依らない、というニュアンスが一番それっぽいでしょうか。
ねえ、まって?
あれを?(゚Д゚)
ワンダースリーを?
言葉なしで?
しかも王子で?????
50年前の作品ですから、存在さえ知らない人もけっこういるでしょうから、私のこの
は?(゚д゚)
感はあまり伝わらないかもしれませんが。
まず最初に、主人公は少年です。それと、ヒロインの女の子。
あともちろん、ワンダースリー。宇宙からきた3人組が変身した
ウサギとカモと馬
です。
ねえ、そのうちのどれを、もうそろそろ40も後半に入る王子が踊るの??
名前の並びからいって主役なんだけど、となると中学生役?王子が???
スタッフさんよ考え直したほうがいいんじゃないか?(・・)
(10数年前の、王子の出演したジャン・コクトーの半生を描いた舞台で過去回想のシーンでリセの学生=14歳ぐらいの役で出てきた王子を思い出して頭を抱えながら)
そういえば、主人公にはたしか兄もいて、これはいわゆる手塚的かっこいいお兄さんで、なんかスパイだかエージェントだか、そういう、「かっこいい」役だったような。
でも、それって主役じゃないよね(・x・)
まあ、いってみりゃわかることではあるので、とりあえず初日初演のチケットを手配して、当日まで全部棚の上にのっけておくことにしました。
7/1 DDD青山クロスシアター
初日、7月1日。公演はソワレ。
18時開場すぎごろにつく予定で出たのが10分ぐらいまえについちゃいました(笑)。
サムネの写真は入場開始前の開場入り口。
地下のシアターにおりていく階段の左右の壁に、ワンダースリーの冒頭部分が拡大されてパネルになって貼ってありました。
帰りにとったから向いてる方向が逆なのと空が夜ですが、こんなかんじ。
物語の導入とともに劇場に入るわけですね。
劇場内は紗幕がつぎはぎ?になっていて、宇宙っぽいBGMが流れる中カラフルなミラーボールがちかちか光を投げてる合間に、よく見るとワンダースリー3人のシルエットがとことこ走ってたり、椅子に配られてた冊子に「ここは宇宙裁判所であなたがたは裁判員です」みたいなことも書いてあって、観客席も舞台の一部です的な演出なんだなあ、と思いながら開演を待ちました。
※のちに、このつぎはぎっぽいのはコマ割りのつもりだということが判明しました。
あんまり詳しく舞台の内容を書くのもどうかと思うので控えますが、結論からいって、
王子は中学生じゃありませんでした(よかった)
だいぶアレンジが入ってて(まあ、当然ですね)、主人公の男の子とお兄ちゃんをがっちゃんこしてシェイクして成形して別キャラにしたような青年漫画家が主人公で、それが王子。
その「星真一」がワンダースリーの3人と出会って、とある機密をめぐる事件に巻き込まれて、地球の危機を救うまでのお話でした。
演出と表現はすばらしい
出演者は王子を入れて5人。
主なキャラクターも、王子と、ワンダースリーの3人(匹)と、敵側役の、いちおう5人。
この5人が、人から宇宙(笑)、背景やモブから人形使いの黒子と場面場面で役割を切り替えつつ、まあ出たり入ったり着替えたり忙しいこと(・x・)
とりあえず、場面場面で着てる服が変わるので、その服でその場面での属性がわかります。
場面転換はなく、基本的に同じ部屋の中でいろんなことが起こるんですが、画像の投影をものすごく有効に使ってて、そこが山道になったり空になったり海になったりします。
せりふがないので、想像力がかなり重要。
一方で、どうやっても言葉(説明)がないと理解させられない内容は、これはある意味ちょっとずるいな(苦笑)と思ったんですが、幕があがるまえの紗幕やスクリーンがわりの窓なんかに、せりふとして文字で出して見せちゃう(・x・)
いちおう最小限におさえたんだろうとは思いますし、おもしろい表現方法だと思います。
が。
一番大事なところが伝わってこない
※原作の内容と舞台のネタバレが含まれます※
そもそもワンダースリーという手塚漫画がどういう話かというと、
すっっごくかいつまんで、
宇宙人の間で地球は滅ぼすべきじゃないか、いややめておこう、と意見が割れたので、はたして地球は滅ぼしたほうがいいのか救う価値があるのかを見極めさせようということになって、3人の調査員からなるワンダースリーが地球に送り込まれます。
そこで彼らは真一と知り合い、真一のクラスメート?ヒロインの女の子と学校の先生、あと、マッドサイエンティストだったか小説家だったか漫画家だったか、とにかく一般社会とはちょっと隔絶した生活をしてる変人のおっさんの3人の助けを得て冒険をしていきます。
ボッコノッコプッコというとても分別のしにくい名前で、一緒に観た、原作未読の友人にも「わからんから動物で言ってくれ」と言われて、これが一番たしかにわかりやすいので動物で書きますが、そもそもウサギはわりと親地球よりというか性善説というか、あんまり地球積極的に滅ぼしたいとは思ってない派。カモが逆ではなっから地球なんか滅ぼしちまえばいいんだという反地球派。馬は中立で、両者をまあまあとなだめる役。
彼らは地球を吹き飛ばせる反陽子爆弾だったかな?を持参してて、終盤、とある行き違いがもとで、やっぱり地球はだめすぎると思い詰めたカモが爆弾を起動しちゃうんです。でもそのあとその行き違いが誤解だったことがわかって、カモも回心して(改心ではない)全員で力を合わせて爆弾をとめて地球を救うんですね。
ところが、彼らの報告を受けた銀河連盟だかなんだかは、地球はやっぱり残しておく価値がないから爆破して帰還しろと命令してきます。
でも、一連の事件で地球人にもいいところがあることを理解できていたワンダースリーは、結局その命令を無視して地球を滅ぼさずに宇宙に帰ります。当然命令違反を咎められて裁判にかけられて、追放刑にされます。今までの輝かしいエリートとしての業績や記憶を何もかも消されて、どこかの惑星でその惑星の住人として一生を過ごすという刑罰です。
せめてどこの星の宇宙人になりたいか希望を聞いてやるといわれて、3人は3人とも、地球人になりたい、と言い、それぞれが地球人に変身させられて地球へと送り込まれます。
そして、そこで、刑務官がつぶやくんですよ。「あのカプセルは光の速さの?倍で飛ぶから、地球につくのはワンダースリーが地球の調査に出向く10年前になるな」って。
そして、最後の最後に、記憶をすべて消されて地球へ送り込まれたその3人こそが、10年後の冒険でワンダースリーと真一を助けてくれた少女と先生と変人の3人だったことがわかるんです。
が。
舞台では、地球を無事救ったところで、ワンダースリーに同様に地球を爆破して帰ってこいという指示がくだります。動揺する真一に、ウサギカモ馬の3人は頷きあって、「心配しないで」というようなジェスチャーをして去っていきます。
で、そのあと裁判のシーンになって、「きみたちは追放されることになった」「どこの星の宇宙人になりたいかね」といわれて、3人が3人とも「地球人になりたいです」と声を(フキダシを)揃えて答えます。
うん、まあ、原作どおり。
でも。
肝心かなめの、「どうしてワンダースリーは地球は救うべきだと判断したのか」が、ここまでの60分ぐらいの舞台からはまっっっっっっっっっったく、伝わってきませんでした。
そもそもカモが地球人に対して否定的だったことも語られ(?)てません。
彼らはただ、偶然、真一の部屋に着陸して、真一が巻き込まれた事件に巻き込まれて、言ってしまえば真一が事件を解決するのを見てただけです。
彼らが積極的に、地球人ってすばらしい、地球人は滅ぼすべきではない、と思うにいたるフックになりそうな場面がまったくないんです(・x・)
たしかに、ノンバーバルで70分ぐらいの舞台ですから、コミックス2冊(それもたぶん通常のページ数を2折か3折オーバーした分厚い2冊)ぶんの内容を、どんなに改変してもつめこまなかったのかもしれません。
でも、そこって、いちばんのキモだと思うんですよ。
あんなに最初地球人に批判的だったカモが地球を滅ぼすことに反対するのがミソじゃありませんか。
3人とも最初っから真一のことが大好きじゃ、ただのペットの恩返しですよ(´・ω・`)
ここが、私はどうにも納得がいきませんでした。
あともう1つ。
途中で、ワンダースリーと真一のピンチを救ってくれたりさりげなく力になってくれたりするモブが3人いるんですが。それぞれ、ワンダースリー3人の中の人がダブルキャスト?でやってました。
それってたんに、ほかの場面と同じく、入れ代わり立ち代わりの演出の1つだと思ってたんですが。
追放されて地球に到着したワンダースリーの3人はその3人の衣装を着てて、互いに目と目を見交わして頷き合い、それぞれどこかへと去っていったんですね。
つまり、彼らはワンダースリーであった記憶を持ったまま10年まえの地球に到着し、自分たちがかつて未来に助けられた行動がとれるよう10年かけて準備をはじめたわけです。
ねえ、それさ。
刑罰になってないだろ。
ワンダースリーのすばらしさのひとつは、ラストシーンになって、じつは彼らが、まったく覚えてないし自覚もしないまま、過去の自分たちが地球を救って地球を愛するようになる手助けをしていたってことが、読者にだけわかるというところなんです。
実際のキャラクターの彼らは、そんなことかけらもわかってないんです。
だけど、彼らはワンダースリーだから。
期せずして、そういう役割を演じてしまったんです。
誰も、当然彼ら自身も、彼らがそんな英雄であることは知らない。
そこが素晴らしいんですよ。
地球人になって地球に潜入して、10年後にあの時自分たちが出会った自分の10年後の姿の存在として自分たちを助けるんじゃ、ただの出来レースじゃないですか(´・ω・`)
それじゃあ、彼らの行動の意味がまったく変わっちゃいます。
そういうアレンジなのはまあ、理解はしますけど。
私はちょっと(´・ω・`)
あと、「彼らをのせた宇宙船は光速を越えて飛ぶから彼らは彼らにとっての過去の地球に到着する」というのは舞台に「10 years ago」って出るあれだけじゃ、知らない人にはどうやっても理解できないと思うんだ(・x・)
実際、同行の友人は私の説明に「そういうことだったのか!」って手を打ってました。
千秋楽はどうなるのか
この舞台は、今回がプレ公演。
11月に本公演があります。
その中でも私が観たのは初演。まだ観客の反応を一切得ていない、いちばん素の状態での上演です。
舞台芸術って生き物なので、回数を重ねて自分の中でこなれたり、発見があったり、あるいは観客の反応に応じて手を入れたりして、少しずつ変わっていったりもします。
今回のプレ公演の反応や手応えをもとに、おそらく本公演は演出や、あるいは内容にまで手直しが入るんじゃないかなーと思ってます。
出演者たちの解釈や表現も変わっていくでしょうし、千秋楽を迎えたとき、この舞台はどんなものになってるのか、ちょっと観てみたい気もします。
公式サイトはこちら。
とりあえずまだプレ公演もチケットは買えるようです。